愛情の飢餓状態とその影響
愛情の飢餓状態は、身体的な空腹感に例えることができます。空腹を満たすために食べ物を求めるように、愛情の飢餓状態にある人は、精神的な飢餓感を解消するために欲求を満たそうとします。
日常的に空腹になると、体が空腹感に慣れることがあります。同様に、愛情の欲求不満が慢性的になると、心も愛情の飢餓感に慣れてしまい、愛に対する感受性が鈍化する人もいます。その結果、他者を愛することが難しくなったり、恋愛感情を抱かなくなったり、自分が嫌われても気にしなくなったり、身近な人の死に対しても悲しみを感じなくなる傾向が現れます。
愛情の飢餓感が強い人にみられる本能的な感性のことを「飢餓感性」と呼んでいます。心が深い愛情で満たされていて常に幸福感を感じている人はほとんどいないので、誰もが愛を欲している状態です。その為、誰にでもある程度は飢餓感性の特徴が当てはまります。また、理性的で社会に適応している人の場合、飢餓感性の特徴が表面的には現れないこともあります。
飢餓感性の特徴
感覚的感受性
愛情の飢餓感が強い人は、物事を感覚的に捉える傾向があります。知性的に人を理解しようとすれば、性格を冷静に判断するでしょうが、感覚的に人を理解しようとすると、表面的な印象で浅く判断します。例えば、性格が明るいか暗いか、態度が強いか弱いか、風貌で決めつけて捉えるなど、イメージや雰囲気で解釈します。
本来人間には理性があり、欲求を抑えることも可能です。しかし、飢餓感が強いほど、理性では欲求を抑えきれなくなります。そうなると、本能的で感情的な反応を示すようになります。それが認知にも影響を与え、感性には理性や知性が介入しにくくなり、感覚的な感受性になることが考えられます。飢餓感性の特徴が多く当てはまる人ほど感覚的になり、よく考えずに衝動的に行動するようになります。
力の志向性
飢餓感性は力の強さにこだわります。ここでいう「力」とは、存在感や影響力に関する精神的な意味での圧力を指します。愛情の飢餓感が強い人は、愛情が希薄な家庭環境で育つことが多いようです。深い愛情で愛されてこないと自己の存在価値を実感しにくくなりますが、自らの力の強さを感じることで一時的に自己の存在感を実感できます。例えば、勝利する、威張る、いじめるといった行動を通じて、自己の存在感を確認しようとします。
他の力を取り込むことにより、間接的に自分が強くなったように感じることがあります。その方法は、他者や集団を通じて自分の力を強化することです。例えば、力強さを感じさせる人物の仲間になったり付き従ったり、何らかの力を行使する集団に属したりするなどです。また、個人が突出した力を持っていなければ、個人よりも集団の方が力を主張したり行使しやすいため、飢餓感性の傾向が強い者達が自然と集まり、徒党を組むようになります。
力強さを感じる物を身近に置いたり使用することでも、自分が力を得たと感じられます。例えば、強さを感じる服装にしたり、使わないとしても武器になる物を身近に置いたり持ち歩いたり、高級車や力強いデザインに改造した車に乗るなどが挙げられます。男性が軍事的な乗り物や強いヒーローや戦闘用ロボットの模型を身近に置いて喜ぶのも、根本的にはこのような欲求に基づいていると考えられます。
自分が強いと認めた人には、相手の力に圧倒されて萎縮することがあります。その結果、強そうな人や怖い人が悪いことをしても、あまり怒りを感じないことがあります。また、強い相手から自分が危害を加えられたとしても、あまり恨まなかったり、相手の言いなりになることもあります。(これらは正義感が強い人には当てはまらない場合があります)相手に力強さを感じても、萎縮していない場合は、抵抗して虚勢を張ったり、反抗したり、相手に負けまいとします。
力へのこだわりは、権威に服従する権威主義的な性質に繋がります。権威主義に関しては、詳しくは「権威に関連する性格」の項目をご覧下さい。
深愛欠如
深愛とは、心から深く愛することを意味しています。愛情の飢餓感が強い人は、深い愛情で人を愛することが困難です。これは、自分自身が深い愛情で愛されて育った自覚がないからです。親が飢餓感性の傾向が強いと、たとえ親は子を愛しているつもりでも、子供にとっては深く愛されている自覚が持てません。それは、親自身が深い愛で愛されてこなければ、深い愛情を子供に与えられないからです。自分が持っていない物は、他者に与えられないのと同じことです。飢餓感性の傾向が強くて子供を溺愛する親は、子供の立場にたっていない独りよがりな愛情を子供に向けます。
動物を可愛がったり、人に親切にしたり、同情するのも一種の愛情ですが、これは深い愛情ではなく浅い愛情です。それを漢字で表すと、愛のない愛情、つまり「情(じょう・なさけ)」になります。たとえ深く愛せなくても、人に親切にしたり、同情したり、動物を可愛がることはできます。
改心困難
飢餓感性の傾向が強い人は、表面的には謝る場合もありますが、心から反省することは稀です。たとえ反省したとしても、改心して行動を改めることがなかなかできません。飢餓感性の傾向が強い人でも、自責の念に駆られることはあります。しかし、自分を責めるのは反省や悔い改めとは異なる心理です。
愛に飢えていると、愛情の欲求不満を解消する為に、誰でも本能的に自分を愛するようになります。その結果、なにか問題を起こした時に本能的に自分を守り、自分の責任を感じたくないため心からの反省ができなくなってきます。頭では自分の行動が間違っていると理解していても、心では本能的に自分をかばい、自己正当化したり責任転嫁をします。それで改心できないため、同じ過ちを繰り返すことが多い。
愛情が不足している家庭環境が原因で犯罪に走る人もいます。犯罪行為を繰り返した人が、自分の行為を反省しないことがあります。厳密には、反省しないと言うよりも、反省することができないと言う方が適切です。反省するのは、今後過ちを犯さない為の心のブレーキになります。反省できないのは、心にブレーキをかける能力が劣っていることになります。その為、反省できないと、悪いことをしたり同じ過ちを繰り返してしまいます。飢餓感性は、確信的に同じ犯罪を繰り返す犯罪者の背後にある心理傾向でもあります。
低学力傾向
愛情の飢餓感が強い人は、愛情の欲求不満を解消するために、自分の欲求を満たすことに熱心になります。その結果、勉学に励む精神的な余裕がなく、学力が低い傾向にあります。
大学に進学しない人が多いため、社会人の場合は肉体労働か接客業に従事していることが多い。ただし、親が教育熱心だったり高学歴な血筋であれば、学力が高いこともあります。出会った人から優しさを何度も受けた経験があると、改心して勤勉になる人もいます。刑務所のような、欲求を満たすことが難しく学ぶ環境がある場合には、勉学に集中する人もいます。
状況の不適応
飢餓感性の傾向が強い人は、現在の状況に対処せず、代わりにやらなくてもいい余計な事をすることがあります。愛情の飢餓感が強い人は、常に自らの欲求を満たすことに執心する為、現在の状況に対処することよりも、肉体的な欲求を満たしたり、フラストレーションを解消したり、自己の力を実感することが優先されてしまいます。飢餓感性の特徴が多く当てはまる人ほど、本来果たすべき責任や必要な事をせず、自分のやりたいことや興味があることを優先する傾向があります。
気弱なタイプは、人間関係の摩擦を恐れて言うべきことが言えなかったり、やるべきことをする気力や勇気がない場合があります。頼まれた事を断れずに、本来やらなくてもいい事をする場合もあります。
誤責思考
他者の言葉や行動を自分に対する攻撃と誤解してしまう心理状態が慢性的である場合、これを「誤責思考」と呼んでいます。これは、他者から責められている状況ではないにもかかわらず、自分は責められていると思い込みます。ただし、責められていると捉えたとしても、それが誤解であると理解し誤解する心理状態が慢性的にならなければ、そのようなケースは誤責思考ではなく一時的な誤解です。
また、他者を誤解して責めるような心理は、誤責思考には含まれません。誰しも多少はイメージで判断する傾向があり、動機を誤解して悪い方に解釈してしまうことは珍しくはありません。特に、悪意のある動機を持つ人ほど、他者の動機を否定的に捉えやすい傾向があります。この心理を心理学では「投影(投射)」と言います。
注意を受ける際、相手は自分の為を思って言ってくれている場合もあります。しかし、飢餓感性の傾向が強い人は、注意されている時は、自分は責められていると感じることがあります。
誤責思考の傾向がある人は、アドバイスや提案を受けている時でも『自分がダメな奴だから言われているんだ』と思い込むことがあります。このような思考は、家庭環境で頻繁に叱責されてきたことが要因ではないかと推測されます。
誤責思考の傾向がある人は、注意を受ける際、本能的に自分を守ろうとして、必死に言い訳をしたり、ムキになって反論したり、頑なに相手の意見を受け入れないこともあります。注意されている時に、自分の殻に閉じこもり、話を真剣に聞いていないかのような薄い反応の態度になる人もいます。中には、嘘をついてその場をやり過ごそうとする人もいます。質問されているだけでも、尋問されているかのように感じることもあります。
気弱なタイプの場合は、自分が我慢すれば人間関係の摩擦がおきないと思い、自分の意見を言えずに注意を受ける人もいます。注意を受ける際、ひたすら謝る人もいます。
飢餓感性のタイプ
飢餓感性は、さらに小心型と粗野型の2つに分類されます。これらのタイプは、部分的に対照的な性質を持っています。
先に述べた通り、愛情の飢餓状態にある人は、とても空腹な状態と似ています。とても空腹になると、元気がなくなったり、逆にイライラして攻撃的になることもあります。小心型は前者の特性を持ち、粗野型は後者の特性を持つ傾向があります。
小心型の特徴
- 気が小さい。
- 学校では虐められがち。
- 要求されると断りにくく、騙されやすい。
- 主に一人で、または少数で行動する。
- 自分を必要以上に責めてしまうことがある。
- 基本的に争いを好まない。
- 良心的で真面目な人が多い。
- おどおどしているか、ぼんやりしているように見える。
- マイペースで、空気が読めない人もいる。
- 嫌われたくなくて顔色を伺う。
- 親友と呼べる人がなかなかできない。
- 他の人が気にしないような小さいことが気になる。
粗野型の特徴
- 気性が激しく短気。
- 学校では虐めをしているか、喧嘩早い人が多い。
- 悪知恵が働き、人を騙そうとする。
- 徒党を組む傾向がある。
- よく人を責めるような言い方をする。
- 勝ち負けにこだわる。
- 人の不幸を見ると楽しくなることがある。
- 日常的にイライラしていて、不平不満が多い。
- 人の動機を悪い方に解釈する。
- 自分より弱いと思う者に対し、見下したり馬鹿にしたり威張ったり虐めたりする。
- 自己正当化や責任転嫁をする。
- 自己主張が強く、虚勢を張って、実際よりも自分を良くまたは強く見せようとする。
- 嫉妬深い。
- 衝動的に行動する傾向がある。
- お金に執着する。
- 性に対する欲求が強い。
- 享楽的に愉快さを求める。
- 意地で行動する。
- うぬぼれが強い人もいる。
粗野型には、悪意をもった人が多くいます。人間の悪意の原因は、根本的には愛情の飢餓感から生じるものだと思います。悪意が生まれる経緯は、愛情の飢餓感から自己の存在への不安となり、人と比較することで不安が不満になり、不満から悪意が生まれます。
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