人格交代について

 

 

人格交代とは

 

人の意識の領域は大きく分けると、顕在意識(表層意識)と潜在意識(深層意識)の二層構造になります。顕在意識は普段自覚している意識の部分で、理性的な判断や論理的な思考を司ります。潜在意識は心の奥底にある無意識の部分で、潜在意識の働きは通常はハッキリと自分で認識出来ませんが、思考や行動に大きな影響を与えています。

 

人格交代は単に性格が豹変するということではありません。人格交代は簡単に言えば、人格が他の人格に代わることです。人格交代とは、人格が別個の人格と交代することにより、顕在意識の領域の支配が入れ代わる現象であると解釈しています。

 

多重人格では、意識の表面に現れている人格は、顕在意識の領域を支配して自分の意志により考えて選択し、身体を使って行動に移す権限を一時的に与えられています。意識の表面に現れていない他の人格は、潜在意識の中にいて自分の出番を待っている状態です。潜在意識の中にいる人格は、意識内部で休んでいたり活動したり他の人格と交流していることもあります。

 

 

DIDの人格交代

 

DID(多重人格の病名である解離性同一性障害)の人格交代は、意識的にまたは自然発生的に起こります。その時の人間関係や状況によって、ストレスを感じると他の人格に交代したり、その場を凌ぎやすい交代人格に代わります。人格によって欲求が違っている場合、欲求を満たせる状況になると人格交代が起こることもあります。1日に交代する人格は、3~6人とされています。人格交代に伴って、他の人格が体を支配して活動した間の記憶に欠落が生じる場合があります。人格が入れ代わることにより、現実逃避と状況に即した適応が同時に行われるのがDIDの人格交代ではないかと思います。

 

DIDを発病する原因は、12歳以前(特に5歳以前)に過酷な反復される虐待(特に性的虐待)を受けた外傷体験によることが多いと言われています。本人にとって耐え難い心的外傷体験をした場合は、虐待以外の原因でもDIDになることがあります。心的外傷体験以外の状況でも、その時の必要性によって人格が発生し、人格交代が起こることもあります。その後に人格が増えて、多重人格になることもあります。

 

 

憑依による人格交代

 

私は、人間の精神状態は、脳や身体の状態だけで決まるものだとは思っていません。霊の存在を肯定していますし、霊が人間の心理に影響を与える事もあると考えています。霊の憑依によって人格交代が起こることもありうると思います。

 

霊の憑依によって精神活動に影響を受けている人の中には、DIDをはじめとする解離性障害と判断されているケースもあるかもしれません。霊に憑依されて普段と違う行動をとった場合には、意識がぼうっとしたり、頭が痛くなったり、幻聴が聞こえたり、性格が著しく変わったり、本人にその時の記憶が無いこともあります。こういった状態は、DIDの症状と似ています。実際に日本では、憑依現象や解離性健忘が多くみられるようです。

DID患者に存在する人格状態の中には、霊の憑依による人格状態が存在するケースもあります。多重人格の治療に関しての記述の中には、実際に多重人格の患者に、霊の憑依による人格状態が存在した記録があります。

 

DIDの人は、トランスおよび憑依障害をもつ人とは区別されています。トランスとは、自分が自分であるという感覚を一時的に失い、普段とは異なった精神状態になることで、恍惚の状態にもいいます。憑依障害とは、霊や神に取り憑かれたと思い込むことです。トランス及び憑依障害を引き起こす原因は、文化や宗教などの影響もあると考えられています。霊の存在を肯定すれば、トランスや憑依障害は、実際に霊的な存在に憑依されている可能性も考えられます。

 

 

高機能自閉症者の人格交代

 

高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、他人との社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。また、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。(文部科学省によるDSM-IVを参考にした試案)

 

高機能自閉症者にも人格交代がみられることがあります。人格交代が起こるのは、ASD(自閉スペクトラム症)の特徴であるコミュニケーションの障害を克服する為ではないかと思われます。高機能自閉症の人格交代は、ASDの症状を持ちながらでも社会生活を送る為に発達した、特殊な社会適応性とも言えると思います。