インポスター症候群とインポスター体験

 

インポスター症候群

 

インポスター症候群は、実際に実力や実績があり、周囲から高く評価されているにもかかわらず、自己肯定感が低く、現在の自分の立場は過大評価だと感じていて、ネガティブになる傾向のことです。たとえ自分の能力と努力で成果をあげたとしても、それを「自分の実力ではない」とか「ただ運が良かっただけ」とか「周りの人達が助けてくれたから」などと考えます。特に、高い地位にある人や、有色人種、大学院卒業生に多く見られます。


インポスターは、偽物や詐欺師を意味する英語です。インポスター症候群の人達は、『自分には本当は能力がない』と思っていて、自分のことを能力があるかのごとく人を欺いている詐欺師のように感じます。そして、自分に能力が無いことがバレないかと、いつも不安を感じていて、自分に能力が無いことをバレないようにする為に、人一倍頑張ります。

 

天才の代表格とも言えるあのアインシュタインもインポスター症候群で、彼は自分のことを故意ではない詐欺師だと言い、自分の研究は注目されるに値しないと考えていたそうです。
他にインポスター症候群であることを告白した有名人は、映画ハリー・ポッターのヒロイン役でも知られ、世界で最も美しい顔の1位にも選ばれた女優のエマ・ワトソンや、映画で数々の賞を受賞し、最もセクシーな女性にも選ばれた女優のシャーリーズ・セロン、フェイスブックの最高執行責任者だったシェリル・サンドバーグ氏、米国のファーストレディーだったミシェル・オバマ夫人などが挙げられます。

 

 

インポスター症候群とインポスター体験の違い

 

インポスター症候群、またはインポスター体験は、心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって提唱されました。インポスター体験と呼んだのはクランスの提案で、「インポスター症候群は症候群や精神障害ではなく、誰もが経験するものだから」という理由からでした。

 

私の解釈では、上記にあるようなインポスターの心理状態を体験することをインポスター体験と呼び、インポスター体験を頻繁に感じる傾向のことをインポスター症候群と呼んで、使い分けています。

 

世界中を対象にした調査では、全体の三分の二の人がインポスター体験をしたことがあるという結果が出ました。また日本での調査では、働く女性の半数近くがインポスター体験をしたことがあるという結果が出ました。これらの調査結果から、インポスター体験は、珍しくはない現象であることがわかります。

 


インポスター症候群の原因

インポスター症候群は、日本では比較的女性に多いと言われています。そして前述したように、海外では有色人種に多いとも言われています。一般的に女性は男性よりも、欧米では有色人種は白人よりも、社会から過小評価される傾向がある為、そういった社会背景も自己評価が低いインポスター症候群の原因の一端ではないかと言われていました。

従来は女性の方がインポスター症候群になりやすいと考えられていましたが、アメリカとドイツでの調査では、男性の方がよりインポスター症候群に陥りやすく、不安から成績が悪化する傾向がわかりました。研究者はこの原因について、「男性により大きな期待をかける社会の伝統的な捉え方によるものだ」と推測しました。つまり、女性にインポスター症候群が多いと思われていた原因の社会背景とは、全く逆の推測が導き出されたことになります。

(GIGAZINEのニュースより)https://gigazine.net/news/20180612-imposter-syndrome/     

インポスター症候群は、周囲の期待によるプレッシャーから引き起こされると考えられています。つまりそれは、プレッシャーを感じやすい性格に起因することが考えられます。実際にインポスター症候群の人は、繊細で責任感が強く、失敗や批判を恐れる性格の傾向があるようです。

インポスター症候群は、完璧主義の人がなりやすいと言われています。ですが本人にとっては、自分に厳しく、いくら頑張っても足りないと感じていて、自分が完璧主義だと気付いていないケースもあります。インポスター症候群の完璧主義によるバイアス(認識の偏り)は、自分への合格点が高すぎるが故に、成果を上げても自分はまだまだだと思い、卑下を通り越して自己批判をしてしまうので、他者からの高評価を認めずに、自分には本当は実力がないと思い込んでしまうことが考えられます。

インポスター症候群の原因として、自己肯定感が低くなる家庭環境の影響が報告されています。 それは、親との関係性で、親からの威圧的な態度や過度の期待、親から愛情や承認を得る機会が少なかったなど。他には、兄弟姉妹との関係性で、常に比較されて育ってきたり、子供の頃から親の役割を担っていた、などです。


インポスター症候群の改善法

ネットでは、インポスター症候群の対処法が数多く紹介されています。しかし大部分は、その方法でインポスター症候群が改善されたという記述はありません。その中でも、改善した方法を書いてみました。

自分がインポスター症候群であることを認める努力をする

まずは、自分にインポスター症候群の心理傾向が当てはまるか、客観的に判断する必要があります。もし当てはまれば、自分がインポスター症候群であることを認めることが大事です。何故なら、自分がインポスター症候群だと分かっていれば、今後インポスター体験を感じたとしても、不安になる理由を知っていることで、以前よりも冷静でいられるからです。冷静に自分の気持ちを見詰められるようになってくれば、心理面の問題点を、少しずつ克服していくことも出来ます。

インポスター症候群の人は、完璧主義の傾向があり、自分の不完全な部分を認めたくないと思っているので、たとえ自分がインポスター症候群だと頭では気付いても、その現実を心では認めたくない心理が働きます。その為、自分がインポスター症候群であることを、認める努力や勇気が必要になってきます。

専門家に相談する

インポスター症候群の専門家によると、インポスター症候群は、過去の体験が原因である場合がほとんどだそうです。特に、子供の頃からの家庭環境が原因のケースだと、心の中の奥深くの意識領域、つまり潜在意識にメンタルの問題点があるので、自分の本心に気付くことが出来ないようです。心の奥底に仕舞い込んでいる本心が原因であれば、自分一人で心の問題を解き明かして解決するのは難しいことです。

インポスター症候群の人は、もし誰かに相談出来れば、自分の心の問題点に気付くことがあるかもしれません。しかし、本人が感じているインポスター症候群の心理傾向は、自分だけのことだと思っているので、あまり相談しようとしません。その為、自分は孤独だと感じている人が多い。周りの人に相談出来ないのなら、専門家に相談した方が問題を解決出来る可能性があると、論理的に解釈すれば良いと思います。

症候群とは辞書によると【はっきりした原因は不明だが、いつも必ず幾つかの症状が伴ってあらわれる時、病名に準じて使う医学用語。シンドローム。】とあります。症候群を一言で要約すると、必ずしも病気ではなく、「病的なこと」です。つまり、インポスター症候群は病気ではありません。

その為、専門家に対応してもらう場合、医療機関で治療するよりも、カウンセリングを受ける方が正攻法だと思います。たとえ本人がインポスター症候群だと思っていなくても、まずは試しに話をきいてもらうくらいの気持ちで、カウンセリングを受けてみてはいかがかと思います。他には、インポスター症候群を改善する為のプログラムを受ける方法もあります。
しかしこれは、医者に診てもらうべきではないと言っているのではありません。インポスター症候群による不安が原因で、中には適応障害や不安障害や鬱を発症する人もいます。インポスター症候群のストレスで、体の具合が悪くなった場合や、精神疾患の症状が出てきた場合は、病院や精神科か心療内科のクリニックで受診した方が良いと思います。医療機関で症状が改善されない場合は、漢方の専門家に相談する方法もあります。


トランススタンス

トランススタンスとは、現在の自分の立場と自認する立場に差があり、違和感を感じている精神状態のことです。インポスター症候群もこの定義に当てはまるので、トランススタンスになります。インポスター症候群とは逆のタイプのトランススタンスも存在します。詳しくは、トランススタンスの項目をご覧下さい。