多重的精神性のDID因子説

 

 

多面性と多重性の違い

 

人の心には、誰にでもある程度は多面性や多重性があります。精神性で言うところの多面性と多重性の違いは、多面性は表面的な多様性であり、多重性は内面的な多様性です。

 

多面性とは、はたから見て個人に色んな面があるということです。例えば、表面的な性格と実際の性格が違う二面性のある性格や、社会的な性格と家の中では態度が違うとか、酒を飲んだら人が変わったようになるなどです。

 

フロイトやユングは、人の心には多重性があるという解釈をしています。この考え方をポリサイキズムと言い、ポリサイキとは多数の魂という意味の言葉です。

多重性の感覚は、複数の自我が心の中で別々に存在している感じです。しかしそれは、自分以外の自我という感覚ではなく、あくまで自分自身の一部なのです。それらの自我は心の中で影響しあっています。そして時々、普段とは別の精神面が表面に出てきます。

 

 

多重的な傾向が強い人格

 

多重的な傾向が強い人は、つかみどころのない性格をしている印象を受けます。気まぐれで気持ちの浮き沈みが激しく、その時々でまるで別の人格を持っているかのように感じられることがあります。それは、その時の気分やその場の状況や対応する相手によって、態度を変える為です。この場合は、手のひらを返すように人によって態度を変える、世渡り上手な計算高いタイプではありません。本人にとっては、気分や相手によって態度が違うのは、自然に振る舞っていることであり、気配りの場合もあります。多重的な傾向が強い人は、たいがい多面性があります。ただし個人差があるので、内面では多重的な傾向が強くても、態度では多面性があまり表面に出ない人もいます。

多重的な傾向が強い人は、自分でも人格に多重性があると実感していることが多いようです。様々な価値観や感性を持っていて、その場の状況に応じて異なる感性を自然に使い分けています。多様な感性を持っているがゆえに、価値観や精神が混乱して情緒不安定になりやすい性質もあります。

多重的な傾向が強い人は、意識の中に他の人格となる種を持っているようなもの、と言えると思います。

 

 

DIDの因子

 

DID(解離性同一性障害)の原因は、小児期に受けた主に虐待などの外傷体験によって発病すると考えられています。しかし、過酷な虐待を受けた経験を持つ者の殆どがDIDになる訳ではありません。虐待を受けた経験によってDIDにはならず、境界性パーソナリティ障害になったり、DID以外の解離性障害を発病する場合もあります。継続的に過酷な虐待を受けても、DIDを発病する者と発病しない者がいるということは、そこには何か違いがあるはずです。虐待を受けた経験が無くても、DIDになるケースもあります。これは、DIDになりやすい素質があることが考えられます。

 

従来の心理学では、DID発病に至る因子は幾つかの説があります。その一つであるリチャード・クラフトの4因子説の中にある催眠感受性(催眠にかかり易い度合や解離しやすい性質のこと)は、解離性障害を起こしやすい因子と考えられます。もともと子供は成人に比べて催眠感受性が高く、解離状態に入りやすい傾向があり、小児期の外傷体験は催眠感受性をさらに高めます。

解離する能力は、心的外傷体験に遭遇した時に、深刻なストレスから自分を守るための防衛本能と言えます。特に子供の場合は、虐待から逃れる為の知恵や行動力に乏しい為、解離能力は過酷な環境に耐えるのに必要な能力です。

 

催眠感受性の他にも、多重人格になりやすい素質が、DID発病に至る因子として考えられます。それは、多重的な傾向が強い精神性の素質があり、それが人格の発生を引き起こす因子の一つになっているのではないかと、私は考えています。つまり、多重人格の人は、自我同一性が複数存在する人格の状態になる以前に、最初から多重的な傾向が強い人格の素質を持っているのではないかという仮説です。DIDは、多重的な傾向が強い精神性を持っている人が、小児期に過酷な反復される虐待を受けた場合に発病することが多いのではないかと、私は解釈しています。

 

DIDの人格と記憶の解離が最初に発生する経緯は、小児期に過酷な反復される虐待を受けた場合、虐待から逃れることが出来ず、虐待されている現実が耐え難い為に別の人格を創り出し、変わりに自分自身の記憶や心と体の痛みをその人格に任せると考えられます。

これは、とても複雑なプロセスによる精神の防衛反応の様にも思えます。しかし、普段から本人以外の人格的な意識を身近に認識している状態であれば、虐待を受けた際に、自分以外の人格への交代が、助けを求める形で、本能的にスムーズに行われると予想されます。

特に人格交代が起こりやすい状態と考えられるのが、空想上の友達であるイマジナリーフレンドを認識している状態や、心や頭の中に自分以外の人格的な意識を感じている状態の他人格症候群(詳しくは他人格症候群の項目をご覧下さい)です。実際に、イマジナリーフレンドと人格交代するケースもあるようです。