人格交代の感覚と睡眠の関連性

 

 

夢の感覚と人格交代の感覚の共通点


DID(解離性同一性障害)の人格交代の感覚は、まるで夢を見ている時の感覚に近いのではないかと予想しています。この仮説を夢の内容やDIDの症状と比較して検証していきます。

夢を見ている時は、夢の中で登場人物や自分自身が、別人になったり役柄が変化します。夢の中では、自分自身の人格の交代がおこっていて、それは誰にでも共通しているものだと思います。自分が見た夢の内容を記憶すれば、それを知ることが可能です。

夢の中での人格交代は、夢の中の状況の変化に対応しようとして起こることもあります。これはDIDの場合で言うと、その場の環境や人間関係の状況の変化に対応しようとして人格交代が行われるのと似ています。

 

夢から覚めた時には、夢の内容を忘れていることが多いですが、DIDの症状でも、主人格や基本人格は、体を支配していない時の記憶がないケースが多い。

 

夢の中では、自分を含めた登場人物が、動物など人間以外の生物になることもあります。DIDの場合も、猫や犬や半人半獣など、人間以外の人格も存在します。

DIDの症状には、人格が目まぐるしく変わるポップアップという現象が起こる時があります。夢の内容でも、自分自身のキャラクターが、急激に連続して変化する時があります。この現象は夢のストーリーの中で、自分が危機を感じている緊急事態の時に起こるような気がします。

夢の中では、何者かに襲われた場合に、自分が変わることで危機を回避することが出来ます。例えば、強いヒーローに変身する、足の速い動物や人物になって逃げる、相手に好かれそうなキャラクターに変わって襲われないようにするなどです。

夢の中で何かに襲われる状況になった時には、パニックになってしまい、あらゆる変身が急激に行われる場合があります。ポップアップもそれと同じように、極度の緊張や混乱を感じている時に起こる現象ではないかと予想しています。

夢の中で自分が変化するキャラクターには、常にモデルがいます。それは、実際に逢った事がある人であったり、テレビに出ている有名人であったり、フィクションの中に存在する登場人物であったりします。または、風貌や性格や能力や役割などが、これらのモデルとなる存在と似かよっています。

それと同じように、DIDにみられる人格にも、モデルがいるのではないかと思います。実際にDIDでは、危害を加えられた人物が元になった人格や、飼っていたペットが元になった人格が存在することもあるようです。

心理学では、夢を見ることは心のバランスをとる働きをすると解釈されています。DIDの人格交代の感覚が、夢を見ている時の感覚に近いとすれば、夢の中で自分自身の人格交代がおこっている時と同じように、人格を交代させることで本能的に心のバランスをとろうとしているという解釈も出来ます。

 


DIDと睡眠の関連性の考察

 

人格交代の感覚が夢を見ている時の感覚に近いとすれば、それは同時に睡眠状態の感覚にも近いと考えられます。DIDでは、睡眠中に人格が交代していることもあります。いずれにせよ、人格交代と睡眠には、何らかの関連性があるように思います。

 

催眠やリラクゼーションをしている時に、人格交代が起こりやすいと言われています。その理由を、人格交代の感覚が睡眠状態の感覚に近いと仮定して考えてみました。それは、催眠やリラクゼーションをしている時は、眠りに入りやすい状態であり、睡眠状態の時のように、夢の中での人格交代がおこるように、人格交代がおきやすくなっている体調になるからではないかと推測出来ます。

 

DIDは心的外傷体験、主に虐待された経験が発端となり発病するとされています。最初の人格交代が起こる経緯は、過酷な虐待の現実を受け入れ難いが為に、基本人格は意識や記憶を解離させて、代わりに虐待を受けた記憶や心と体の痛みを、他の人格に任せると考えられます。この時の基本人格の状態は、睡眠状態に入っていることが多いのではないかと予想しています。眠っている状態は、体の痛みやストレスを緩和する作用があります。実際に基本人格は、長い間眠っている状態であることも多いようです。

 

昔の多重人格の認識の一つとして、夢遊現象ではないかと解釈した主治医もいたようです。人格交代の感覚が睡眠状態の感覚に近いのではないかという解釈は、昔の多重人格の解釈に逆戻りすることになります。

 

脳の中に、前部帯状回という感情を司る部分があります。普段は本人の意識により感情を制御していますが、眠っている時は前部帯状回が活発に働き、起きている時は抑えられている無意識の感情が主導権を握るそうです。人格交代にも、この前部帯状回が密接に関係しているのかもしれません。

前部帯状回は、知性のある人間に進化する以前から存在する動物的な脳の部分に属していて、本能的な情動に深く関連しています。前部帯状回は脳の中で、苦痛などに関係する部位であると言われています。精神的苦痛や身体的苦痛を受けると、前部帯状回が活発化することが分かっています。前部帯状回は、記憶の整理にも関係していると考えられています。夢を見るのは、睡眠時に前部帯状回が活発に働き、記憶を整理して再編成している現象です。

 

人格交代の感覚が睡眠状態の感覚に近いとするならば、DID患者の覚醒している時の脳は、睡眠時のような状態の時もあるのではないかと考えています。ただしこれは、体を支配している人格によっては、覚醒している状態の人格もいれば、睡眠状態の人格もいるかもしれません。同じ人格であっても、睡眠状態であったり、覚醒している状態の時もあるかもしれません。

夢を見ている時のレム睡眠中の脳活動は、覚醒時に近いそうです。睡眠状態であるかどうかは、現在では厳密には脳波で定義されています。DID患者は、意識や身体は覚醒しているように見えたとしても、脳波は睡眠状態、特に夢を見ている状態を示す脳波になっている時もあるのではないかと予想しています。